価格以外で優位に立てば、価格でも主導権を握れる

別な表現をすると「TSMCの価格は競合他社より常に高く設定し、技術、良品率、納期、サービスといった価格以外のすべての分野で競合他社をリードしなければならない」となる。価格以外の全てで競合他社よりも優位に立てば、価格設定でも主導権を握ることができ、顧客はTSMCの提示価格を受け入れるしかなくなるからだ。

アップルのスマートフォンは他社製品よりも高いのに消費者が欲しがるのと同じで、TSMCの顧客はTSMCのファウンドリーサービスに対して、価格はほかより高いがそれを補って余りある価値を感じているのだ。

林宏文『TSMC 世界を動かすヒミツ』(CCCメディアハウス)
林宏文『TSMC 世界を動かすヒミツ』(CCCメディアハウス)

モリス・チャンは会社の人事構造を例に挙げて「価格設定」の重要性を説いている。CEOの報酬は通常、一般的なエンジニアの50倍、作業員の400倍だが、そもそもCEOはなぜエンジニアの50倍もの報酬を得られるのか。

会社の利潤は販売価格からコストを差し引いた額になるが、仮にここで、1%のコストを削減するためにエンジニア1000人をリストラしなければならなくなったとする。この場合、価格設定に長けたCEOなら価格を1%上げて、1000人をリストラしたのと同じ効果を生み出すはずだ。CEOがもっと値上げしても製品を売ることができれば、CEOが高額の報酬を受け取ってもいいはずだ。

差別化された商品の価格決定権はメーカー側にある

もちろん、市場競争が激しくなると従来価格の維持すら難しいのだから、簡単に値上げできない。だがモリス・チャンは、差別化されていない製品を売るときは、販売価格の決定権は販売者ではなく市場と競争相手にあるが、オーダーメイド製品を製造する場合は、価格設定の余地は大いにあると語っている。

サムスンのメモリーが汎用品であるのと対照的に、TSMCが受託する製品はオーダーメイド品が多いため、TSMCの方がより大きな価格決定権を持っている。しかもTSMCは業界のリーディングカンパニーでもあるため、むしろ積極的に価格決定権を行使できる立場にある。

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